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「宮崎・シンガポール経済交流訪問団」への参加報告(経営学部 /柚原知明)!

 去る平成26年10月10日(金)~10月13日(月),宮崎県商工会議所連合会主催「宮崎・シンガポール経済交流訪問団」への参加のため,シンガポールへ海外出張してきました。「宮崎・シンガポール経済交流訪問団」については,10/18(土)17:00~「MRTニュースサタデーNEXT」の特集として報道されましたので,ご覧になられた方もいらっしゃることと思います。

 「宮崎・シンガポール経済交流訪問団」派遣の背景としては,近年シンガポールが「アジアのハブ」としての地位を確立し,国家戦略としてカジノを中心とした統合型リゾート(Integrated Resort,略称IR)の開発を中心に急速な経済発展を遂げていることです。本訪問団の派遣は,これらのシンガポールの活力を宮崎に取り込み経済発展に資するため,シンガポールとの友好親善と経済交流の促進を図ることを目的として実施されました。

 本訪問団は,宮崎県商工会議所連合会会頭「米良充典様」を団長として構成団体「宮崎県農業協同組合中央会」「宮崎県経営者協会」「宮崎経済同友会」「宮崎県工業会」「宮崎県建設業協会」「宮崎県」「宮崎市」等々宮崎県の主要な経済団体と行政組織,宮崎県議会議員,宮崎市議会議員,および宮崎県内主要企業の経営者の方々が参加され,参加総数が100名を超える大規模派遣となりました。

 本訪問団への参加につきましては,ご推薦をいただきました大村昌弘学長,法学部の立川淳一教授,および丁寧な海外出張手続きのご指導と事務作業のご対応いただきました総務課の谷口美穂課長をはじめ関係職員の皆様方に篤く御礼申し上げる次第です。

本訪問団への参加ご報告については,下記の通り1.訪問日程・訪問先,2.写真集,3.総括を記載しております。

 

1.訪問日程・訪問先

○訪問日程: 平成26年10月10日(金)~10月13日(月)
○訪問先:シンガポール

10月11日(土) 都市政策の研究視察として「シンガポール・シティー・ギャラリー(Singapore City Gallery)」を訪問
10月12日(日) 統合型リゾート(Integrated Resort,略称IR)の研究視察として「リゾート・ワールド・セントーサ(Resorts World Sentosa)」,および「マリーナ・ベイ・サンズ(Marina Bay Sands)」を訪問

 

2.写真集

写真1. 10/10(金)出発前の結団式において「宮崎・シンガポール経済交流訪問団」団長の宮崎県商工会議所連合会会頭「米良充典様」によるご挨拶の様子です(宮崎空港)。

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写真2. 宮崎県から自治体国際化協会シンガポール事務所へ派遣されている所長補佐「宇佐澄子様」による講演の様子です。今日のおけるシンガポールの実情と国家戦略に関して講演いただきました(シンガポールのヨークホテル研修会場)。

写真2

 

写真3. シンガポール視察開始前の「全体ミーティング」での筆者です。少々旅の疲れが出ている様子です(シンガポールのヨークホテル研修会場)。

写真3

 

写真4.「シンガポール・シティー・ギャラリー(Singapore City Gallery)」において,現地ガイドよりシンガポールの都市開発を巡る歴史的経緯と国家戦略について説明を受けている様子です。

写真4

 

写真5.「シンガポール・シティー・ギャラリー」は,精緻な都市模型とIT化が進展している展示会場です。

写真5

 

写真6. シンガポール観光の象徴である「マーライオン(Merlion)」と,統合型リゾート(IR)の象徴である「マリーナ・ベイ・サンズ(Marina Bay Sands)」の風景です。シンガポールにおける最高の観光スポットです!

写真6

 

写真7. シンガポールにおける統合型リゾート(IR)の象徴である「マリーナ・ベイ・サンズ」は,3棟の高層ビルのホテルを船形空中庭園「サンズ・スカイ・パーク(Sands Sky Park)」で繋いだ壮大な建物です(最後部の高さ200m,57階建て,総構築費70億シンガポール$,営業開始2010年4月27日)。天空にそびえ立つ景観は,絶景です!

写真7

 

写真8. シンガポール経済の柱としては,「金融」「観光」「エンターティメント」のみならず「貿易」も重要な役割を担っております。シンガポールは,国民という人材以外ほとんど資源の無い小さな国土の都市型国家です。

写真8

 

3.総括

 シンガポールは,「金融」「観光」「エンターティメント」「貿易」を経済的基盤とした小さな国土(東京23区とほぼ同じ716.1平方キロメートル,人口540万人)の天然資源や農産物のほとんど無い都市型国家です(表1ご参照)。

表1「シンガポールのSWOT分析」

内部環境の強み(Strength)

  • 教育水準が高い,公用語が英語
  • 生活環境や物流インフラ充実,アジアのハブ空港としての確立,清潔な街
  • 法人税等の税制上の優位さ
  • 外国人雇用の容易さ
  • 政治経済の安定性,意思決定の迅速性
  • 石油化学,電気電子等の産業集積
  • 幅広いFTA(自由貿易協定)と投資協力の強力なネットワーク
内部環境の弱み(Weakness)

  • 国土の狭さ
  • 物価,人件費や不動産コストの高さ
  • エネルギーの海外依存度の高さ
  • 天然資源が無い
  • 水,食料などの基礎食料品の海外依存の高さ
  • 歴史的蓄積と層の薄い国内産業
  • 国民の高齢化進展
外部環境の機会(Opportunity)

  • アジアの中心に位置する立地の優位性
  • アジア各国の経済発展による国際会議等のコンベンション・ニーズが増加
外部環境の脅威(Threat)

  • 国際経済・政治情勢の影響の大きさ
  • 東アジア近隣諸国の香港,マカオのリゾート開発,誘致活動の活発化による競合激化

(出所) 11/11(土)自治体国際化協会シンガポール事務所所長補佐「宇佐澄子様」講演資料より加筆作成。

 しかしながら,1965年マレーシアからの分離独立後,優れたリーダー(歴代首相リー・クワンユー,ゴー・チョクトン,リー・シェンロン)の輩出としたたかな国家戦略によって国家を発展させてきました。独立以来のシンガポールのしたたかな国家戦略とは,弱みを強みへ転換させ,脅威を機会と捉えてきたことです。したたかな国家戦略の歴史的変遷としては,取り巻く内外の環境変化や国際情勢を踏まえた迅速な政策決定によって「労働集約型産業(1960年代)」「高付加価値産業(1970年代)」「サービス産業(1980年代~1990年代)」「知識集約型産業(2000年代)」「エンターティメント産業(2010年代~)」へとその経済的基盤を見事にシフトしてきたことです(表2ご参照)。

 今日のシンガポールは,1人当たりのGDPがすでに2007年に日本を追い越し,ミリオネラ(Millionaire)が18%存在し,世界で最も億万長者比率の高い国家となっております。

表2「シンガポール国家戦略における基盤産業の歴史的変遷」

〔1960年代〕労働集約型産業

  • 外国資本の導入,輸出志向型工業化政策を導入
  • 電気製品の組み立てなど労働集約型産業育成
  • 海外企業の誘致に向けて法人税の引き下げ優遇政策実施
〔1970年代〕高付加価値産業

  • 労働集約型からの脱皮
  • コンピュータや機械などの付加価値の高い産業へシフト
〔1980年代~1990年代〕サービス産業

  • 1985年マイナス成長になったことを機会に,金融や通信サービス産業分野を強化
〔2000年代〕知識集約型産業

  • 知識集約型産業の育成を強化
  • 電機,化学,通信,バイオ,医療サービスなどを重点分野として強化
〔2010年代〕エンターティメント産業

  • 交通,再生可能エネルギー,水などの都市ソリューションの開発
  • 多様性のある人材の誘致・育成
  • カジノやMICEを中心とした統合型リゾート(IR)の開発

*MICEとは,Meeting(会議・研修・セミナー),Incentive tour(報奨・招待旅行), Convention またはConference(大会・学会・国際会議), Exhibition(展示会)の頭文字をとった造語。
(出所)大前研一〔2013〕『クオリティー国家という戦略』小学館,87頁より加筆作成。

 統合型リゾート(IR)の象徴「マリーナ・ベイ・サンズ」においては,施設全体の中で3%のカジノ・フロア面積に対して,カジノが全体の収益の中で80%を稼ぎ出しております。カジノ・ビジネスは,成功した場合非常に大きな経済効果が期待できますが,負の作用として「ギャンブル依存症」やギャンブル地域の特徴である「治安の悪化」が懸念されます。シンガポールは,これら負の作用の対策に向けて「カジノ管理法(Casino Control Act)」を制定して,様々な管理体制とセーフティーネットを張り巡らせております(表3ご参照)。外国人のカジノへの入退室については,パスポートチェックを含めた厳しい管理体制がとられております。

表3 「カジノ管理法(Casino Control Act)」

1.シンガポール国民に対するカジノ入場税の徴収
 (100シンガポール$/日,または2,000シンガポール$/年)

2.排除プログラム

3.特定地域以外でのメディア広報・プロモーション行為の禁止(広告規制)

4.入場に関わる年齢制限(21歳以下の賭博防止)

5.カジノ施設内への銀行ATM設置の禁止

6.ギャンブル依存症国民協議会(NCPG)の設置

(出所)11/11(土)自治体国際化協会シンガポール事務所所長補佐「宇佐澄子様」講演資料より加筆作成。

 安倍総理は,『統合型リゾート(IR)は,我が国成長戦略の目玉!』と主張しており,現在宮崎県を含めて全国各地の幾つかの地方自治体がカジノを中心とした統合型リゾート(IR)の誘致に乗り出しております。昨年12月3日、特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法案「IR推進法案」が議員立法として国会に提出されました。現在国会で賛否両論が議論されておりますが,我が国にも本格的にカジノを中心とした統合型リゾート(IR)の開発が進展しそうな勢いです。

 しかしながら,統合型リゾート(IR)の成否に向けてはシンガポールの事例にみられるように様々なセーフティーネットと管理体制の整備が鍵を握ることになります。カジノを中心とした統合型リゾート(IR)は,開発を行えば大きな経済効果が期待できるという単純なビジネスモデルではなく,ホテルの整備や外国人観光客の受け入れ体制を含めた様々なノウハウの蓄積,および管理体制の整備が求められます。しかしながら,我が国では経済効果を中心とする議論がなされており,負の作用を巡る十分な危機管理に対する学習や検討がなされていない状況にあります。カジノの誘致には,懸念される人々の「ギャンブル依存症」や地域社会の犯罪対策を含めた「治安の悪化」に対するセーフティーネットと管理体制の整備が重要となります。我が国は,カジノ・ビジネスに関してシンガポールを含めて長い歴史をもつモナコ・ラスベガス・マカオといった世界の実情を十分に視察・研究する必要があります。加えて,我が国はバブル期において全国各地の地方自治体が行った様々な負の遺産である建造物の構築という失敗の二の舞だけは避けなければなりません。

 

以上

 
(報告者 経営学部/柚原知明)

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